流行通信
1999年7月−9月
浴衣

 日本には着物という民俗衣装があります。着物には普段着や外出着、正装と、いろいろな種類がありますが、今日では社会的な行事や儀式に参加する時に「留め袖」というシルクの生地の着物を正装として切る場合を除き、普段の生活で着物を着ることはほとんどなくなってしまいました。着物が洋服に比べて着付けが難しく、値段も高いからです。しかし、浴衣は例外と言えます。

 普通、着物は重ね着が基本ですが、ひとえの木綿でできている浴衣は素肌に着ることができ、特に湯上がりに着ると最高です。着方は簡単で、ただはおって左手側が外になるように前で合わせて、帯を締めるだけです。ちょっとした外出ならそのまま出かけられるし、寝間着として着ることもできるのでとても便利。蒸し暑い日本の夏には最適です。昔から日本人は盆踊り、花火大会、縁日などには浴衣に下駄を履いて出かけたものです。

 浴衣はもともとは部屋着でしたから、紺色を中心としたシンプルなデザインのものがほとんどでした。ところが15年ほど前から黒や濃い緑といった洋服のような感覚を取り入れたものが出回りはじめると、中学生から二十代前半の若い女性の間で外出用のおしゃれ着として人気が高まりはじめました。山本寛斎やコシノジュンコらをはじめとする有名服飾デザイナーのブランド品が登場したことも、人気に拍車をかけました。今では、はでな原色からベージュ、オレンジ、ピンク、黒地に白といった、昔ながらの浴衣には考えられなかった地色が勢ぞろい。柄は従来の格子、幾何学模様のほかにも花(ハイビスカスなど)、果実、動物などにも人気が集まっています。デパートなどでは浴衣のファッションショーも行われています。

 一方では、浴衣に合わせた帯、はきやすくなった下駄、アップした神をまとめるかんざし、カラフルなペディキュア、各種うちわ、着物の帯地で作られたバッグや財布など、さまざまな関連商品が登場してきました。夏祭りや花火大会ばかりでなく、スポーツ観戦や行楽地など、目的や場所に合わせて浴衣との組み合わせを楽しむことができます。

 今ではすっかり夏のファッションとして定着した浴衣ですが、上に書いたように、もともとは入浴後などに着る部屋着でした。そのため、今でも日本の多くの旅館やホテルには、宿泊客のために浴衣が用意されています。入浴後は浴衣を着てのんびりとくつろぎ、そのあとは寝間着代わりに来て寝ることもできるのです。

 今年の夏も、街のあちこちで浴衣を着た人々が見かけられ、日本の蒸し暑い夏をあざやかに彩りました。


写真:若い女性達は浴衣を着てお祭りに出かけます。(共同通信)

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